日本における地域在宅高齢者の年間転倒発生率は10〜25%で、施設入所者では10〜50%程度と言われています。
転倒につながる要因は様々で身体機能面だけの影響ではなく、精神面、環境要因なども影響してきます。
そして転倒リスクについては脳卒中を発症されている方ではやはり高くなってきます。
A:内的要因
1)加齢変化(最大筋力低下、筋の持久力低下、運動速度の低下、反応時間の低下、感覚機能の低下 など)
2)疾患(不整脈、心不全、パーキンソン病、片麻痺、OA、関節リウマチ など)
3)薬物(睡眠薬、降圧薬、鎮痛薬、向精神薬 など)
B:外的要因
床⇨滑りやすい床、めくり上がった絨毯など
障害物⇨廊下の障害物、電気のコードなど
照明⇨暗い廊下・階段など
玄関・階段⇨大きな階段など
風呂⇨手すりの不備など
着衣・靴⇨和服やロングドレス、靴が合っていない など
この記事では、案外見落としがちが転倒に関わる要因であり、脳卒中当事者の方だけでなく多くの方の歩行をサポートする靴の選び方についてまとめていきます。
良い靴とは?靴選びに必要な3つの視点
良い靴をもてめている方は多いと思います。しかし、靴を選び履く当人によって「良い靴」は異なります。
靴選びに正解はなく、使用場面-使用目的-身体機能の3つの視点をふまえ、最適な靴を求めていく必要があります。
使用場面:どのような環境で用いる靴か
例)屋外/内、整地/不整地、斜面、段差、滑りやすさ、など生活環境に応じて
使用目的:どのような目的、動作に用いる靴か
例)外出用、おしゃれ、雨天用、安静時用、歩行用、など動作目的に応じて
身体機能:どのような身体機能に適合する靴か
例)足のサイズ、緩衝能、支持能、可動性、筋力、バランス、など身体機能に応じた
歩行に良い靴の構造
一般的に良い靴とされる構造は以下の図のような靴を指します。
しかし、良い靴とされている構造も上記で説明した使用場面-目的-身体機能のバランスによっては悪い靴になる恐れがあることは知っておきましょう。
特に脳卒中当事者の方は装具を着用していたり、浮腫で腫れていたりすることもあり靴選びは慎重にしていく必要があります。
なので、リハビリ専門家や靴の専門家(シューフィッター)などと一緒に検討することが大切ですね。
構造・機能 | メリット | デメリット |
①カウンター (月形しん) | カウンターは踵の側面にある硬い構造で、 踵骨を直立・安定化させる役割がある。 | 前額面上での足の運動を制限する 可能性がある |
②ヒールが幅広、 厚みと適度なクッション性 | 幅広いヒールは接地面を広げるため、 後足部の安定に重要。 また衝撃吸収のためにヒールは有効。 | 幅広いヒールや厚いヒールは 足部に対するモーメントを増加させる |
③トゥスプリング (靴先の反り上がり) | 歩行中の前遊脚期を支援し、 遊脚(足ばなれ)をスムーズにする。 | 足趾が接地しない状況となり、 重心の制動能力が低下する可能性がある |
④着圧調整が可能な締め具 (靴ひもや面ファスナー) | 靴内での足の動揺を抑え、 開張とアーチの低下の軽減する効果がある。 | 靴による足部の固定で循環や関節運動が制限される可能性がある。 |
⑤踵〜爪先にかけ 2〜3cm傾斜している | 静止立位で若干足関節底屈になることで、 歩行立脚中期以降の足関節背屈を 軽減することができる。 歩き出す際の重心の前方移動をスムーズにする。 | 前足部の過重量が増大する 可能性がある |
⑥滑りにくい アウトソール | 摩擦係数の高いアウトソールを使用することで「滑り」を軽減することができる。 | 過度な耐滑性は「つまづき」 につながる可能性がある |
適切な靴の選び方:(実践)靴のサイズの把握
靴のサイズを誤って購入された経験がある方も多いと思います。
高齢者が選ぶ靴のサイズについて調べた研究においても、高齢者の多くが自身の足サイズをより大きく見積もり、オーバーサイズの靴を選択していることが報告されています。
あなたの歩きにくさはもしかすると靴のサイズが合っていないからかもしれません。
ここでは、適切な靴の選び方を実践形式でお伝えしていきます。
準備するもの:A4用紙、ペン、メジャー
①A4用紙を縦半分に折る
②紙の端と踵を合わせ、折線に示指を合わせる(Aーa)
③第1・第5中足骨頭の側面に印をつける(B-b)
④メジャーなどで足長(Aーa)と足幅(B-b)を計測する
靴の使用方法の練習
歩行中の足の機能で重要な視点は、ロッカー機能のです。
人間の歩行は、足が地面に接地した時に、踵の骨で前に転がったり、くるぶしや足趾の関節部分が振り子の視点となり、重心が前にスムーズに移動していきます。このような働きをロッカー機能といいます。
つまり、踵からついて重心が前にスムーズに移動する機能を足部が担っているということになります。靴はそのロッカー機能をサポートできる働きがあります。
①初期接地(踵接地位置)を確認
(ヒールが潰れる感触を感じながら)
②前足部を接地させたり、離地させるる踵部の転がりを感じる
①、②の動きを繰り返すことは最も重要なポイントです。
踵接地がロッカー機能の第1ポイントになるからです。
まずは、この①、②を練習することがポイントになります。
まとめ
いかがでしたか。
今回は靴選びの基礎をご説明させていただきました。
先の述べたように、良い靴はこれといったものはありません。個々の目的や身体機能によって異なってきます。
また、世の中には様々な靴が作られており、機能性だけでなくデザインも重視した物も作られています。
色々試して自分に合った靴を探してみるのもいいですし、それが歩行をサポートする働きや転倒予防にもつながる可能性があります。
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参考
- 荻野 浩:転倒の疫学と予防のエビデンス.2018
- 長谷川正哉:高齢者の靴の選び方.リハージュVol6
コメント
メニューごとに参考になるものばかりで左片麻痺当事者としては有難いと思っています
大割由子様
いつも記事を参考にしていただきありがとうございます。
このようなコメントをいただけるととても嬉しく思います。
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靴の選び方を拝読しました。装具をつけるようになり靴の選択肢が限られ自分でも着脱しやすい介護用を履いてます。右麻痺側は中敷きを外し、左足にはインソール入れてバランスとってます。スニーカーも大好きですが現状ではおしゃれも諦めざるを、えません。この記事を読んで少し希望を持てました。いつかはお気に入りのスニーカーで歩きたいです。
装具の兼ね合いで靴の選択も変わってきますね。
中敷きを外して調整されてることは、一つもの工夫だと思います。
スニーカーなども選択肢の一つになると思うので色々試すのはアリだと思います。
少しでも希望を持っていただけて嬉しいです。